新車試乗レポート
更新日:2022.08.26 / 掲載日:2022.08.25

【試乗レポート ルノー キャプチャー E-TECHハイブリッド】魅力は低燃費にあり

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス

 輸入車でもハイブリッド車の拡大が進んでいるが、これまではマイルドハイブリッドか、プラグインハイブリッドカー(PHEV)の二択であった。これは環境対応の主力をダウンサイズエンジンとしてきたことに加え、欧州の急速な電動化戦略により、ストロングハイブリッドより一歩踏み込んだPHEVを推進してきた背景にある。しかし、PHEVは、走行距離や最高速度などの制約があるとはいえ、日常走行の多くを電気だけで賄える性能を備え、充電も可能。その結果、EV感覚で使える一方、高コストの負担を強いられてきた。そこでルノーは、やはり本格的な電動車シフトの橋渡しには、ストロングハイブリッドの役割が大きいと判断し、ストロングハイブリッドの投入を決断した。グループには、シリーズハイブリッドを得意とする日産という仲間がいるが、敢えて独自のハイブリッドシステム「E-TECHハイブリッド」を開発してきた。その背景には、欧州でのニーズを考量したことだけでなく、独自の高効率なシステムを生み出すことで、今後想定される未来への備えとしたかったことになるのだろう。

満を持して登場したキャプチャーのハイブリッドモデル

ルノー キャプチャー E-TECHハイブリッド

 日本にも、2022年より導入を開始しており、2月に発表された第一弾モデルとなるハイブリッドクーペSUV「アルカナ」に続き、6月末には第2弾としてコンパクトハッチ「ルーテシア」に。そして、8月末には、第3弾となるコンパクトSUV「キャプチャー」にもハイブリッド仕様を追加した。一気に3車種のハイブリッドを投入したことからも、ルノーが電動化戦略の中で、完全電動化の前に、まだハイブリッドが果たす役割が大きいと考えていることが伺える。

 3車種のハイブリッドシステム「E-TECHハイブリッド」の構造は同じだ。自然吸気の1.6L直列4気筒DOHCエンジンと電気モーターを組み合わせたシリーズ・パラレルハイブリッド方式のもの。このハイブリッドのメリットは、電気モーターとエンジンを最も効率良く使うことにある。アルカナはまだしも、ルーテシアやキャプチャーのような小さなクルマには、コンパクトなハイブリッドユニットが求められる。そこでモーターを小型化し、性能を得るために、ATを搭載しているのが、ユニークなところ。しかもその切替のクラッチには、レーシングカーに用いられる「ドッグクラッチ」というシンプルかつ軽量な伝達機構を用いた。そのメカニズムや制御には、ルノーがF1参戦で培った技術が活かされているという。

 走行の主なサイクルは、発進時から40km/hまでの領域は電気モーターのみ。40km/hから80km/hまでの中速域はモーターとハイブリッドを組み合わせ走行。80km/h以上の高速域は、エンジンのみとなる。電気モーターの性能は、3車種とも共通の49ps/205Nmを発揮。出力こそ小さいが、205Nmのトルクが発進時から使えるため、加速力は問題なし。エンジンは、アルカナと同スペックの94ps/148Nmを発揮。ルーテシアよりもほんのわずか性能向上が図られている。因みに、電気モーターとエンジンを合わせた出力は、143psと、ガソリン車の154psに迫るもの。最大の武器となる燃費消費率は、1.3Lガソリンターボ車が17.0km/Lに対して、22.8km/L(共にWLTCモード)まで向上しており、電動パワートレインの強みを見せる。

ハイブリッド最大の違いは俊敏で気持ちのいい走りにある

 さてパワートレイン以外のガソリン車との違いは、意外と限定的だ。ビジュアル面の差は、ほぼないと言っても過言ではない。ハイブリッドバッチも控えめ。装備面では、ガソリン車のインテンステックパックの内容に、後退時に、左右から接近車両を検知する「リヤクロストラフィックアラート」と液晶メーターパネル、7インチから10.2インチにアップデートされるくらい。前後席など乗車空間に違いはないが、電動化システムの搭載で、ラゲッジスペースが536Lから440Lに縮小されているが、劇的に小さくなったと感じるほどの違いはないように配慮されている。

 最大の違いは、やはり走りにある。特に発進時の動きの身軽さは、さすがハイブリッドらしく俊敏で、シグナルスタートではエンジン車よりも身軽で、気持ちよいスタートを切れる。ストップ&ゴーが多い街中では、ハイブリッドの方が、走りは快適だろう。エンジンを兼用する中速域では、エンジンとモーターをシームレスに切り替える。ATは、エンジン側に2速、電気モーター側に4速を備えるが、そのポジションを意識させることはない。エンジンの存在を意識するのは、主体となる高速域だ。加速性能などに不満はないが、アクセルオフの状態や減速時などは積極的に回転数を落とすので、減速と加速のエンジン音の差が気になる部分もあったが、音楽などを聴いていれば、そこまでは気にはならないだろう。またシフトの「B」ポジションを使うと、アクセルオフでの減速が強くなるので、アクセル操作のみで速度の微調整も行えるので、シーンに合わせて「D」と「B」のポジションを活用したい。ただパドルレスなので、ギアや回生ブレーキを活用した減速の強さの調整はできないのが、少し残念であった。

まとめ

ルノー キャプチャー E-TECHハイブリッド

 ハイブリッド車の標準グレードとなる「E-TECHハイブリッド」は、装備内容が近い、ガソリン車「インテンステックパック」と42万円高となる374万円だ。ただ購入時は、重量税が減税となり、環境性能割も非課税となるため、約13万円の減税が受けられるという。そうなれば、価格差は29万円まで圧縮される。悩ましいのは、エンジン車の出来が良いことだ。メルセデス・ベンツグループから供給される1.3L直列3気筒ターボは、AクラスやBクラスなどのコンパクトクラスを支える高バランスなエンジンであり、振動も少なく、パワフル。欧州車らしい走りを支える良きエッセンスとなっており、ハイブリッドに負けるのは、燃費のみといっても過言ではない。試乗では、E-TECHハイブリッドの違和感のない走りには、ルノーの本気を感じるが、欧州車らしさが薄まったと思うのも正直なところ。今の段階では、実用的なクルマでもあるため、ガソリン車の方に分があるだろう。しかし、これはまだ第一世代のストロングハイブリッドだ。今後、ルノーがどんなハイブリッドに育てていくのかも、大いに好奇心をそそられる。日産のe-POWERではなく、独自のシステムに拘ったのだから、その点は期待しても良いのではないだろうか。

ルノー キャプチャー E-TECHハイブリッド
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大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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